口がある。各階の踊り場に色硝子をはめた大窓なんかがあるが、エレベータアはこわれていて動かない。
 信吉は一段トバシに五階まで強行し、劉の住んでる戸を叩いた。
 返事がない。
 ドン、ドンドン。
 ひっそり閑としている。チェッ! 誰もいやがらねえのかしら。
 ――どうとも仕様がない。もとの並木道を、三人の赤襟飾のピオニェールにくっついて歩いて来た信吉は、不意と微かに顔色を変えた。
 若しや……。まさかそんなこたあるめ。国柄が違うもん。なんぼ、俺がズラかって来たからって……
 だが裁判所。法律。というと、日本のプロレタリアの信吉には頭がモヤモヤとなって先へ監獄しか見えない。
 貧乏人に法律は、実際おっかないんだ。〔四字伏字〕ぐらいになれば何万という金をちょろまかしたって、〔三字伏字〕がいい塩梅にやってくれて、「今日こそ晴天白日の身」と新聞にまで出せるが、全くの貧乏人は、困って困ってただの十円どうかしたって懲役だ。ひでえもんなんだ。
 信吉は心配で、それなり家へは帰れなくなった。そんなところから呼び出しを食う覚えねえだけ、薄っ気味わるい。
 信吉は、暫く待って、もう一遍劉のところへ行って見ることにした。アーク燈のすぐ下にベンチが空いている。そこへ腰かけた。一服しようとポケットをさぐったら、あわくって飛び出して来たんで、生憎《あいにく》、煙草もマッチもない。
 信吉は内ポケットからさっきの紙をとり出し、踏んばった両膝へ肱をつき、パンとひろげて眺めたが――。
 我知らずロシア人のするように肩をすくめ、信吉は悲しそうに紙をもったなり両腕を拡げた。
 いけねえ。……字を知らねえじゃいけねえ。
 しっとり黒い夜の梢の下で白い紙は、寒そうにアーク燈の光を浴びた。

        四

 ビショビショ雨降りだ。
 モスクワの雨樋はちょっとよそのとかわってる。一番下の、雨水を吐くところがまるで大ラッパの口みたいに、いきなり人道へ向ってあいている。だから、ウッカリその傍なんか歩くと、グワワワワワと、四階五階のてっぺんから溢れて来る雨水で容赦なく足をぬらされる。
 信吉は、現にズボンの裾を濡らしてる。靴も幾分ジクついてるのだが、そんなことには気をとめず、熱心に四辺《あたり》の様子を見まわしていた。
 へえ……ソヴェトの人民裁判所ってのは、こういうもんなのか。
 第一、裁判所と云ったって、普
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