たした。婦人部《ジェノトデェール》[#「婦人部《ジェノトデェール》」は枠囲い]金文字の札が出ている。戸がかたい。うんと力を入れて開けたら日本女がびっくりした程ひどい音がした。
 事務机。二つの電話。大きな紙屑籠、重ねあげられた書類、ひとり女が仕事している。
 ――御用ですか?
 赤鉛筆で何か書類に棒をひきながら、
 ――対外文化連絡協会から電話があったろうと思いますが……日本から来たものです。
 ――ああ。
 顔をあげて、並んでいる二人の日本女を見た。
 ――わかってます、一寸待って下さい。
 引込んだその女について、すらりとした、黒っぽい服装の若い女が奥の室から出て来た。彼女は、軽く、直線的に日本女に向って歩いて来ながら手をさし出した。
 ――こんにちは、ロシア語おわかりでしょう?
 ――大抵のことはわかるつもりです。
 ――それ以上何がいりましょう?
 先に立って、自身出て来たとは反対側の戸をあけた、そこも一つの室で、今は空だ。ローザ・ルクセンブルグの写真がかかっている。椅子が二つしかなかった。
 ――ちょっと待って下さい、すぐとって来ますから。
 婦人部の事業は全部女によってされ
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