をなぐるものがある。イギリスの役人だ。彼は小さいインドの小僧としてそのイギリス人に使われ、字を読むことも知らない。
いつも哀れなインドのプロレタリアートのために親切な医者として働いているヨーロッパ人のチャンドラナート・パープの息子、ラグナートとウペシュは友達になった。
舞台は、今チャンドラナート・パープの家だ。二人は同じぐらいの年ごろで、――つまり観衆の子供と同じ十一二歳の子供たちだが、どうだ! ラグナートが、左手の隅のカーテンの中へ一寸入ると、室じゅうが急に真暗になった。
――ああ! ラグナート! どこいった? こわいよ! 暗いとこへは悪魔が出るよ※[#感嘆符二つ、1−8−75]
――大丈夫だよ! 大丈夫だよ。僕ここさ。
だが、なにが初まろうというんだ? 観衆の少年少女はラグナートの緊張を自分の心に感じて息をころしている。
――ここを見て御覧。
ラグナートの声の方を見ていると、細長い箱みたいなところがボーッと明るくなって、人間の形が浮き出たかと思うと、
――ヒヤーッ! 助けてくれ※[#感嘆符二つ、1−8−75]
インドの子供が悲鳴をあげたのは当り前だ。骸骨だ、そこへ現れたのは。
観客席はざわめく。
――ラグナート! ラグナート!
泣かんばかりに腰をぬかしたウペシュを照してパッと電燈がついた。骸骨も消えた。
ラグナートは今度ウペシュをカーテンの中に入れ、
――そこんところへ手を出してたまえ。
電燈が消える、ポーッと現れたのは骨ばっかりの手だ。
――イヤダヨーッ! 死ぬのはいやだよッ※[#感嘆符二つ、1−8−75]
――死にゃしないよ。ホラ!
電気がついて見ると、ウペシュははね上って大悦びした。
――やあ! 死んでないや! 死んでないや!
見物の子供たちと日本女とはラグナートと一緒にハアハア大笑いし、同時に、実はそっと一安心する。それはレントゲンだったのだ。ここではじめてレントゲンの科学的作用をまのあたり知った子供が観衆の幾割かを占めているのは明らかなことだ。
「|若い観衆《トユーズ》の劇場」は一九二一年、レーニングラード地方ソヴェト文化部管理の下に活動をはじめた。
日本女と子供たちの手にあるプログラムには「インドの子供」の役割が書いてあるだけではない。やさしい言葉で、インドの社会的事情が前書として説明してある。終りに「何をよ
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