『カンジット』はジイドをトロツキイストと呼んでいるということも肯ける。そして、これらのことはジイドがその前書の中で予見していたよりも深甚な反動としての影響を今日の人類の運命と文化の発達の上に明《あきらか》にマイナスなものとして、与えないとは決して云えない。ジイドとして、その結果については思うように思わしめよ、と云うには、余りに錯雑し、重圧のつよい世界の現状の裡に、彼もひとも生きているのである。
 だが、『プラウダ』の批評のような表現でジイドが示した影響の政治的性質だけをとりあげられても、従来ジイドの人間的良心というものをそれなりに見て来た一部の人は、具体的な矛盾の本質までは闡明されず、納得しかねるのではあるまいか。
 ジイドは、パウロからサウルへ転身しようと意企していたであろうか。もしまた、意図せざる結果として、客観的には人類の進歩性を後へひっぱる権力に利益を与えることになったのならば、それは如何なる意識下の力――作家ジイドが好んで潜入し、格闘するところの無意識の力に作用されてであるのか。それらのあらましが究明されなければなるまいと思うのである。
 アンドレ・ジイドはゴーリキイの誕生に
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