家の人々の動きかた、あらゆる複雑な世紀と人生の波濤をそこに感じるからであろうと思う。
今日私たちのところには「チボー家の人々」が訳されており、その主人公のジャックの一時期の境遇を描いた「灰色の手帖」「少年園」は一般につよい感銘を与えている。マリイ・オゥドゥウの「孤児マリイ」は何とまざまざと女の子のための孤児院の生活感情を語っているだろう。「格子なき牢獄」という映画にはリュシェールという若い女優の美しさばかりでなく私たちの心をうつものがあった。そして、それよりもっと生《き》のままの身近い現実として、今日の私たちの周囲には少年犯罪の増加の事実が世人の注意をひいているのである。
この、ジャン少年の手記は、トルストイの文学に親しみぶかい日本の多くの人々の心に、少なからず刺戟を与えるだろうと思う。特につい先達って築地の小劇場で新協が演じたアンナ・カレーニナを観た女のひとたちの心に。アンナがカレーニンと離婚することが出来なかった原因はいくつかあるが、その一つは、うたがいもなく可愛い息子セリョージャを全くカレーニンにうばわれてしまう苦痛に堪えないからであると描かれていた。トルストイが「アンナ・
前へ
次へ
全14ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング