若者が通った私娼窟へ金を流すという風であるそうだ。
カメラが、こういう青年層へ急激にひろがって行きつつある。手近で、集団的な生活に小さい愉しみをもたらす手段ともなるのであるから、地味な気質の勤労青年たちがカメラにひかれるわけも分る。午ごろ、お濠ばたを通りかかると一時間の休み時間を金のかからない外気の中で過そうとするあの辺の諸官庁会社の、主として若い連中が三々五五、芝草の堤にもたれたり、お濠の水を眺めたりしている。なかに、小型写真機を胸の前にもって、松の樹の下に佇んでいる同僚をうつしているつつましい背広姿もよく見かける。外国であったら、その時松の樹を背景として立っているのは、陽気に皓《しろ》い歯並をキラメかせている同僚の女の子であるだろうのに、お濠のまわりの人目の多いところでは、殆どいつも男が男の仲間をとってやっているのも如何にも日本らしい。
特別議会が終ったが、ここで臨時増税が決定した。新たに増税されるものの種目に、写真機及その附属品、原料というのがある。フィルム、原像液、引延機、みんな其々に税がかかるのであろう。写真機の大衆化は、その生産過程の特殊性から或る方面の支持によったので
前へ
次へ
全6ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング