。自分では写真機を余りもたず、外国を旅行したとき伯林《ベルリン》でこんな笑い話を友達からきいた。ドイツの小学生に先生が質問した。日本人と米国人とはどこがちがいますか? 子供の答えに曰く。年よりで、ズボンに筋がなくて、眼鏡をかけて、写真機をもっているのが日本人です。アメリカやドイツへ行くと、レンズがよいのが魅力で税のかからぬところで誰でも買おうと思うのだろう。
 モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]で、私の暮したホテルはパッサージという名で、今ゴーリキイ通となった大通りにあった。冬の凍った三重窓に青く月の光がさして、夜の十二時にクレムリから大時計の音楽の一くさりが響いて来た。窓の前は、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]夕刊新聞の屋上で、クラブになっていた。着いた年の冬は、硝子張りの屋根が破れたまま鉄骨がむき出しになっていた。雪がそこから降る。春の北国の重い雪解水がそこから滴っている。荒々しい淋しい心のひきむしられる眺めであった。二年後に、その屋根はすっかりガラスが嵌めこまれて新しいものになった。ライラック色のルバシカに金髪を輝やかした青年と、黒い上着を着て白っぽいハンテ
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