みほつれた老人と死につつある老婦ではありませんでした。」
 カールはもう一度丈夫になれそうに見えた。その時――一八八一年十二月二日――イエニーが死んだ。「親愛なる、忘れがたき生涯の伴侶」は失われた。最後までよいユーモアを失わず、みなの気を引立てるために冗談をいって笑いまでしたイエニーは、最後の意識が失われようとする時カールに向って云った。「カール、私の力は砕けました。」彼女の眼はいつもより大きく美しく輝いていた。口がきけなくなった時イエニーは娘たちに手を押しつけて、優しくほほ笑もうとした。そしてだんだん眠りに入った。エンゲルスはこうしてイエニーが死んだ時云った。「モールも死んでしまったのだ」と。
 エレナーは書いている。「お母さんの一生と共にモールの一生も終ったのです。彼は沮喪しないようにと激しく闘争しました。(略)彼は彼の大著を完成させようと努めました。」
 生涯の伴侶の埋葬にカールは立会うことが出来なかった。病気のため医者から外出を禁じられていたから。数人の親密な友人が、彼女をハイゲートの墓地へ送った。エンゲルスの墓前での言葉は次のように結ばれた。
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「このよ
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