ルはお祝として、それ迄につくった四十篇の詩と、悲劇の一幕と、喜劇小説の数章とをまとめて「永久の愛のわずかなしるしとして」この高貴な人がらをもつ父に贈った。或る人はいっている。カールは、三人の「聖者」をもっていた。彼の父、彼の母、そして彼の妻と。この素晴らしい父は、一八三八年、カールが二十歳の時に腎臓病のためにトリエルで死んだ。
母のアンリエットは、オランダ生れのユダヤ婦人でユダヤ語とはちがうドイツ語を、完全に発音さえ出来なかった。博識な良人につれそう家事的な情愛深い妻としてアンリエットは、息子カールに対しても、言葉のすくない母の愛で、その精神と肉体とをささえていたと思われる。男の子が、もし母の愛と、その生活の姿とで、女性への優しい思いやりをはぐくまれなかったら、どうしてカールが妻イエニーを愛したように女性を愛することが出来たろう。
カールの六歳の時、マルクス家は改宗して、ユダヤ教からプロテスタントになった。
二 イエニーとの結婚――ベルリン時代――
カールにゾフィーという一人の姉があった。このことは、彼の一生にはからずも深い意味をもった。ゾフィーの親友にイエニ
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