ルヴィが、生粋のパリの市民で――プロレタリアートで、イリュージョンを持たず、機智的で実務家で、恋愛と結婚とをはっきり区別し、「そりゃ恋人には危っかしくたって面白い人がいいけど、良人には、一寸退屈だって永持ちのする確《しっか》りした人でなくっちゃ」と云う女なのに反し、アンネットは理想家です。アンネットは、将来政治界に活動しようとする或る青年を愛した。が、いざ結婚というところまで進んで、腐敗した政治界、善良ではあるがごく世間並なその青年の結婚観に一致出来ないことを感じ、苦しむ。アンネットの裡には、不羈《ふき》な自由精神があって、彼女の心臓《ハート》の力で殺すことが出来ない。然し彼女の成熟した女性は愛を欲し、大きな情熱によってその婚約した青年とは永劫に別れつつ、彼の児の母となった。社会の常識と闘い、アンネットはそれを機会に新たな生涯に入った。彼女は、彼女の父親の代から属していた有産階級と絶縁し、家庭教師その他知的職業によって生活する一人の無産者となった。
 アンネットは美しい。若い。然し恋愛を或る点恐怖している。アンネットは一旦自分を譲ったら徹底的に譲歩する自分の性質、並に必ず反抗するに違い
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