ゾロゾロ歩いているが、どこにも組織されたデモンストレーションの列は見当らない。広場に近づくにつれ、意外のものがめにとまった。まるで戒厳令だ。通りに面している店と云う店はことごとく表戸をしめている。板戸に錠前をかけ、あるところでは鉄扉がおろされている。
 広場の中心へ行くと、やっと、行列らしいものがあった。往来でもみかけたようなレイン・コートの一隊が広場をグルリと列で取り巻き、手に手におそろしく太いおんなじ形のステッキをついている。みんな鳥打帽だ。
 一台、二台、三台トラックがきている。上にギッシリやっぱりレイン・コートの一隊が立っている。はじめはそれが行進を待っているメーデーのデモンストレーションだと思った。
 が、すぐ変だなと気がついた。レイン・コートの一隊は右手に赤い布で腕章をつけている。墨でそこへ何かかいてある。自分はポーランド語が読めない。それでもロシア語に似た、ポリーシャ(警備隊)という字は読めた。よく見るとその前には、市街という字がある。
 そうするとこれは反動青年団だ!
 反動青年団がこんなにも大勢、こんなにも太いステッキで武装して広場を囲んでいる!
 かんじんの労働者はどこだ? グイグイ体でステッキとレイン・コートの間をおしわけ、その中へ入ってみたら、ホンの数百人、赤旗を中心に憂鬱な、カンシャクを喰いしばったような顔をしたデモがたっている。
 歌をうたうものもない。反動青年団の袋の中へ追い込まれ、出るもひくもできない。さてどうしようと考えている風だ。
 その時、遠く左手の狭い路の奥でインターナショナルの奏楽が聞えはじめた。
 ソラ! デモがきた。わたしはかならず、その音楽に相応して広場に先着しているデモの中からも湧くような歌が起るだろうと思った。ところが、ほんの一節聞えただけで、音楽はやんだ。
 群衆の頭越しに行進してくるようにみえていた旗もどうやら一つところへとまって進めないようだ。
 いわば反動青年団と、デモンストレーションとの睨み合いだ。数から云っても広場の中に到着しているだけのデモはとても反動団の太いステッキには勝てそうもない。
 わたしは今、この時刻に、モスクワの全市を赤旗と音楽と飛行機の分列式とでおおいながら、壮麗極まるデモで行進しているソヴェトの労働者の有様を思い、ゲンコを握って、このひどい反動的空気をなぐりつけたい気になった。
 実に
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