ないのよ。
 ――ふーむ。お前注意してやれ。
 マトリョーナは黙ってたが、いきなり、ジャガ薯を頬ばりながら、
 ――全く我々の親たちは無自覚だ!
とうなった。今度はワーニカがだまってる。
 ――私、戸籍登記所《ザグス》で改名する!
 ワーニカは、マトリョーナの赤い頬っぺたと、そこへおちてる金髪を眺めた。
 ――マクシムに私注意した、もう。でもあいつがそれをきかない訳知ってる? マトリョーナだからさ! 私が。
 ワーニカは思わず笑い出し、だんだん大きな口あけて笑った。
 ――これから、どこ行く?
 マトリョーナが立ちあがりながらきいた。
 ――五時からピオニェールの区分隊だ。
 ワーニカはつれ立って食堂を出た。
 分隊の仕事は八時ですむだろう。それから映画見にターニャを誘おうか? ワーニカは、考えながら雪道をトウェルスカヤ通の方へ歩いてった。[#地付き]〔一九三一年四月〕



底本:「宮本百合子全集 第九巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年9月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本「宮本百合子全集 第六巻」河出書房
   1952(昭和2
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