、モスクワ大学で経済と法律の勉強をするようにしてくれた。
 ワーニカは、だから元気だ。元気な息子を見て、ワーニカのおふくろはよろこんで、親父の古外套を仕立直して、ワーニカのにしてくれた。
 十分暖い。防寒靴《ガローシ》はだいぶ古で、歩くとパクつくが、何! これがソヴェト五ヵ年計画に障害を来すわけでもないさ。――
 ワーニカは、わいわい云いながら入口で防寒靴をぬいでる一かたまりの男女学生の中に、見なれた円い緑色の毛糸帽を見つけた。
 モスクワには、そんな緑色の帽子をかぶってる女がうんといるわけなんだが、ワーニカは、例えそれが五つかたまってたって、見そこなわないだろう。
 ――どうしたい? ターニャ!
 うしろから、その緑色帽の肩へ自分の肩をぶつけてワーニカが云った。
 ――昨夜《ゆうべ》、お前はよく話したな。
 党員や学生、労働者たちはみんな互に「お前」で話す。ターニャは党員じゃない。けれど、自動車工場に働いてる労働者の娘だ。モスクワ大学男女学生が、赤色学生連盟から『赤色学生』っていう雑誌を出してる。昨夜は、その発行所で、大学寄宿舎生活についての討論があった。自己批判だ。ターニャはその時
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