ロシア革命は婦人を解放した
――口火を切った婦人デーの闘い――
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)皇帝《ツァー》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)一日三十五|哥《カペイキ》(三十五銭ぐらい)。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ことわざ[#「ことわざ」に傍点]で
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 皇帝《ツァー》と地主と資本家によって搾取が行われていた時代、ロシアの勤労階級の男は、教会の坊主から常に「お前らが此世でつかえなければならない主人は三人ある」と説教されていた。その三人の主人というのは「天の神、神の子であるツァー、ツァーの子であるお前らの主人、雇主など三人である」と説きつけられ、屈従を強いられていた。
 働く婦人は一層ひどかった。坊主は女に向って十字架をふりかざし、恐ろしい目つきをして命令した。
「お前が一生命令に従わなくてはならない主人が此世に四人あるゾ。第一が天の神、第二が神のお子である皇帝、第三がお前らの使われている主人、第四が亭主だ。わかったか」
 工場で女は十一時間、十二時間と働かされ、賃銀は一日三十五|哥《カペイキ》(三十五銭ぐらい)。身持ちになっても休めばクビであるから辛棒して働き、機械の前に倒れてそのまま赤字を生むことさえ珍しくなかった。物がわかると、獣のような生活から反抗するから、皇帝と資本家と地主との政府は、女を軽蔑して学問をさせず「女と牝鷄は人間でない」ということわざ[#「ことわざ」に傍点]で女を圧しつけて、搾った。
 農村の女は、ほんとに家畜のようであった。
 だが、女が工場に働き、農村で働くうちにストライキの経験、争議の経験などにより、プロレタリアートの幸福というものは自分達が団結して、皇帝《ツァー》、資本家地主と闘い、それをうち倒し自分らの手でうち立てなければならないものであることを知りはじめた。
 一九一七年三月八日の婦人デーは世界の働く婦人にとって忘れられない日である。ロシアの働く婦人はこの日「パンと平和をよこせ!」と叫んで街頭に溢れ出し、幾千人という婦人が憲兵と勇ましく闘って、遂に世界の歴史を新しくした革命の第一の口火を切った。その頃は第一次帝国主義世界戦争で皇帝資本家地主は自身の利益のため、労働者農民を何十万人と西部戦線で殺していた。国内では工場が閉
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