前には他《ほか》の道がある。お前は精神的な人間だ」
「精神的って、どういう意味だい?」
「何に対しても羨望ということがなくて、唯、知りたいっていう心だけ在る人間のことを云うんだ……」
 ゴーリキイは、これは当っていないと思う。だが、彼の天質に蔵されている健全な生活力が、この虚無的な雰囲気との摩擦の間に、一つの新しい疑問の形をとって、徐々にその働きを現した。これらの連中は、いつ、何を話しても、とどのつまりは「何々であった[#「であった」に傍点]」「こうだった[#「だった」に傍点]」「ああだった[#「だった」に傍点]」と万事を過去の言葉でだけ話す、その事実にゴーリキイの観察と疑惑がひきつけられた。意味深い彼等のこの特性の発見は次第にゴーリキイの鋭い心に或る恐怖を感じさせた。ゴーリキイの精神は激しく、よりよい人生の可能を求めてここに来ているのであった。彼は未来を、これからを、よりましな「何ものかであろう[#「であろう」に傍点]」ところの明日から目を逸らすことが出来ない。ゴーリキイは彼等のように生きてしまった人々[#「生きてしまった人々」に傍点]の一人ではなかった。ゴーリキイは生きつつある者、
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