を持ってもいないこと、翼をもがれ、手足をとられていても狭苦しい偏見や独断に馴れた精神と感情とは、習慣で徒に真理の墓を守っている。信仰の堅いという連中は、その生活の中ではちっとも愛の光に照されていず、寧ろ喜んで互に圧迫しあっている。これらの毎日の観察は、ゴーリキイの生涯に譲ることのない確信として、習慣による信仰が最も悲しむべき有害な現象であることを理解させる土台となったのであった。
ゴーリキイは、手帖にいろいろのことを書きこむことを始めた。本からの感想、日々の出来事からの強烈な印象、又は詩などを。聖画屋の番頭はそれを知ると、この反り鼻の小僧を呼びつけて言いわたした。
「お前は抜萃帖か何か作ってるそうだが、そんなことはやめちまわなくちゃいけない。いいかね? そんなことをするのは探偵だけだ」
聖画店の主人は五|留《ルーブリ》の給金を無駄にしないようにゴーリキイを働かした。ゴーリキイは主人が家具、敷物、鏡その他に執着し、こせこせとそれらを自分の家の中に詰め込むのが厭わしかった。市場の倉庫からサモワールだの箱だの鋏までくすねて来るのを見るのは厭しかった。その不恰好な置かたや塗料の匂いまで癪に
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