みな。わからなかったら七度読みな。七度でわからなかったら十二回読むんだ!」そして、肥った獣のようにうめいて深い物思いに沈み、荒っぽくどなった。
「そうだ! お前には智慧があるんだ。こんなところは出て暮せ」ゴーリキイは、生涯の中に出会った四人の人生についての教師の一人として、このスムールイをあげている。スムールイは、一度ならずその嘘のような腕力をふるって水夫や火夫の破廉恥で卑劣ないたずらから少年ペシコフをまもったのであった。
 十歳の時、ゴーリキイは詩のようなものをつくり、手帖に日記を書きはじめた。日々の出来事と本から受ける灼きつくような印象を片はじからそこへ書きこんだのである。が、それと知った聖画商の番頭は、奇妙な反り鼻の小僧を呼びつけて、云いわたした。
「お前は抜萃帖か何かを作っているそうだが、そんなことはやめちまわなくちゃいけない。いいか? そんなことをするのは探偵だけだ!」
 一八八一年、ゴーリキイが十三の時、アレキサンダア二世が暗殺された。

 人生の矛盾がますますつよくゴーリキイの心を不安にした。彼の周囲に充満しているのは無智やあてのない悔恨や徒食、泥酔、あくまで互にきずつけ
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