さけてイタリーに住んでいたその時代に、「母」という長篇がかかれました。
 一九二三年、レーニンのすすめでイタリーに住んだゴーリキイが一九二八年の初夏、久しぶりでロシアに帰って来ました。私が会ったのは、このときのゴーリキイです。六十歳のゴーリキイは、見上げるばかり大きくて、年とったアザラシのような髭をつけ、柔かい灰色の背広をきていました。このとき会ったゴーリキイほど、人間らしくて無限の経験にとみ、しかも方便とうそが微塵もない作家というものは、決してざらにあるものではないと感じました。大家らしい偉さによってではなく、その生粋の人間らしさで老いた巨人のようにたのもしい感じを与えるのがゴーリキイでした。そのゴーリキイが、ソヴェト人民の建設をさまたげようと企んだトロツキー一派の反革命派のために毒殺されたのは一九三三年でした。ゴーリキイはそのとき六十五歳でした。



底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年5月30日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第八巻」河出書房
   1952(昭和27)年10月発行
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
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