ソヴェト労働者の夏休み
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九三一年九年〕
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 さて、いよいよモスクワも本物にあつくなって来た。
 あっちは、日本みたいに梅雨はないが、冬がひどく長い。四月頃やっと雪がとけて、メーデーには、小雨でも降ると、まだどうしてなかなか冷えるという時候だ。
 それが五月二十日すぎるとカーッと一時に夏になるんだ。
 こないだまでその上でみんながスケートをやってたと思うモスクワ河には河童どもがいっぱいだ。
 夕方、仕事から引きあげて来ると、もう早い連中が、河の堤の青い草の上へ服をぬぎすてて、バシャバシャやってる。裸身の親父がまだボシャボシャすることも知らない小さい息子を抱いて、体を洗ってやってると、妻君が嬉しそうにしゃがんで眺めているのなどもよく見かける。
 一寸電車にのって行くと、やっぱりモスクワ河に沿って、「文化と休みの公園」という数万坪の大公園がある。
 河には職業組合の貸ボートがある。
 公園の茂った樹の間には、図書館、芝居、音楽、活動写真館、その他、ラジオ
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