百万足)     七五( 〃 )
 Aを見てもBを見ても、生産拡張率はただごとではない。一九一三年、即ちロシアの大衆がツァーと資本主義の治下で苦しんでいた頃の生産と比べると、一番率の低いものでも百七十パーセント、多いものになると、千パーセント、或は六千パーセント、云い直せば十倍、六十倍という巨人的生産増加を計画しているのだ。
 しかも、ソヴェト同盟は社会主義によって組織されている世界でたった一つの社会だ。生産拡張膨張した国富を、間で吸いとる者はいない。真直、それは、生産拡張のために努力するソヴェトの労働者農民自身の日常生活の中へ戻って来る。五ヵ年計画は、勤労階級の文化向上のため、文盲撲滅費、住居増築費、学校・病院・托児所増設、食堂の増設、ラジオ・キネマ配布網の拡大費等に莫大な基金を予定している。
 生産手段の電化と機械化によって、ソヴェト勤労者の労働時間は、一九三三年に平均六・八六時間ですむようになるだろう。賃金の上昇と、物価の低下によって、一九二八年に比べるとソヴェト勤労者の実際収入は五ヵ年計画の終りに於て七一パーセント増になるだろう。
 電力は二二〇億キロワットに、集団農場の耕作地面は二〇〇万ヘクターになるだろう。――ソヴェト工業生産の九二パーセントが社会化され、農業生産は、六五パーセント社会化されることになる。
 世界の資本主義国家の御用専門家は、このソヴェトの五ヵ年計画を一目見て、先ず嗤《わら》った。ソラまたボルシェビキの誇大妄想がはじまった! と。それから、ブルジョア経済学の理屈を武器にして、けなしつけた。「アメリカほどの生産技術をもっていてさえ、生産全線を倍にひき上げることは容易でない。ソヴェトの工業はおくれている。この計画がもし百年間の計画だと云うんなら、我々は幾分信用できただろう。」
 ソヴェト同盟の指導党全同盟共産党、及それを支持する革命的労働者農民及び一般勤労者は、勿論この五ヵ年計画が楽な仕事でないのは知りぬいている。だが、同時に、これが断然一九二八年と三三年との間に於てなされ、着手されたら完成されなければならぬということをも、知っている。
 プロレタリア革命の真の勝利は、生産の実力において、資本主義国家の生産を追いぬくことだ。これは、レーニンが強い、明瞭な言葉で云った。
 ソヴェトの党とプロレタリアートとは社会主義社会の生産と文化との向上のため、あらゆる努力を費して来た。革命前の知識階級が持っている技術はむろんだ。一九二一年には、党員でさえその大胆さに恐怖した果敢さで個人資本までを、利用した。が、革命第十年において、では、有名なソヴェトの「鋏」はどんな工合になっているか?
 鋏というのはこうだ。ソヴェトは農業国として、従来やって来た。一九二八年、耕地面積は戦前の九五パーセントまでにとり戻したが、そこからとれる麦の量というのは、外国に比べると四分の一だ。それは何故だろう。農民は村ソヴェトは持ってるが、アメリカの百姓みたいな農業機械はまだもっていない。四五十年昔の、木と鋤と馬とで、広大な土地の上をノロノロ働いている有様だ。
 ところが、都会における軽工業の四七パーセントまでは農村からの原料でやっている。農村には、一九二一年新経済政策以来凡そ百万の富農が出来た。富農はいつも私有財産制への逆転を願っている。
 ソヴェトで工業発達のため外国から機械を買うとする。払う金貨は、国内からの麦、木材、麻等の輸出であてなければならない。農村は、まだ集団化されず、社会主義的自覚が足りず、とかく富農の悪影響によって動かされがちだ。都会の軽工業は原料不足から、農民の消耗品をつくる軽工業生産を活溌にやれない。すると農民はブツブツ云い出す。「俺らが都会を養ってやってるのに、ハア、着るもんも穿くもんも工場じゃ拵《こしら》えね。こっちも、働くの控えべ。」こうなると、都会と農村との経済状態はイタチゴッコに消極化し、衰弱するばかりだ。
 ソヴェトの社会主義的生産組織は、まだこの鋏の二つの刃を、強固に結合さすことに成功する程発達はしていなかった。
 一方ソヴェトの外は、どんな状態か? 地球六分の五を占める資本主義国家は、ソヴェトが邪魔だ。それは一九一七年来、わかっている。たった一つの、社会主義共和国家ソヴェト・ロシアに向って、行き詰った資本主義国家が侵略的野心を抱いていることは、年とともに明かになっている。
 第一ロシアは天然資源が実に豊富だ。資本主義国家が目下苦しんで互にせめぎ合っているのは何か、原料の不足と市場の狭隘ではないか。先ず経済封鎖でソヴェト社会内部にあるいろんな政治的偏向を突ついて、少しごたごたでもしたら、それを機会にワーッと帝国主義連合軍をなだれこまそう。帝国主義の侵略主義者たちの平凡な思わくだ。あの大きいロシアの土地をわけどり
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