なった。
 広い前庭だ。
 太い柱列の間の入口から、立派な石の正面階段を昇ってゆくと、左手の柱に喫茶所[#「喫茶所」はゴシック体、枠囲み]と札が出ている。さっぱりした小テーブルと、腰かけがある。通りぬけると奥は一般談話室だ。
 狭くなった廊下を出ると、左手に浮彫つきの堂々たる扉がある。ソログープのための相談、指導部だ。「集団農場における作家」展覧会委員室もある。
 広間では、一月《ひとつき》のうち順ぐりに、映画研究会、劇研究会、作品研究会、評論研究会などが持たれる。そして、われわれはそこに見る。赤いプラカートを。
[#ここから4字下げ、枠囲み]
階級の武器としての芸術を××××××[#「××××××」に「*」の注記]化しろ! 社会主義建設のために、党の線によって、進め!
[#ここで字下げ、枠囲み終わり]
 ここはソログープの書斎だった室だ。が、諸君、ここの戸はごくソーッとあけなければいけない。クラブ読書室なんだから。
 茶色に塗った貴族的な本棚が壁をふさいでいる。レーニン全集。マルクス・エンゲルス全集。資本論。いろんな経済学術雑誌などが整理されて本棚はギッシリだ。大テーブルのまわりには空席がない。ひっそりして、皆何か読んでいる。新刊雑誌にまじって外国雑誌もテーブルの上にある。
 読書室の向いの戸は開かない。――一年前「ゲルツェンの家」にあった光景とこの光景との違いはどうだ! ソヴェトの、逆転することない歴史的飛躍が颯爽と現れているではないか。
 だが、たった二年の間に、どうしてソヴェト文壇の空気は、これ程大きい清掃をやったか?
 ソヴェト社会の客観的情勢が、最近二年間に、実にかわった。それに応じて、ソヴェト文壇の指導が従来の「同伴者《パプツチキ》」作家団体から、完全に、「ラップ」=ロシア・プロレタリア作家同盟へ移った。これが、大きい原因だ。
 では、その客観的情勢の変化そのものは、どこから来ているのだろうか。
 目下、ソヴェト同盟が第三年目に入った生産拡張の五ヵ年計画によってだ。今日のソヴェト同盟内に起るどんな小さい社会悲劇も喜劇も、この一九二八・九年から三三年に亙る五ヵ年計画の偉業ときりはなしては説明出来ない。
  * このプラカートの欠字は一九四八年の今日うずめることができない。

       「五ヵ年計画」

 これまでも、ソヴェト同盟で生産は計画的に行われ
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