男役を買ってでている女が、これはまたなんと威勢のいいことだ! 着ぶくれたアガーシャ小母さんである。音楽にあわせ、
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ハア
ハア
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 急所の手ばたきと掛声ばかりは一人前だが、若い男が飛んで跳ねる活溌な足さばきが、その年の小母さんにできようはずはない。
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ハア
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 どっこいしょ!
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ハア
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 そら、あぶない! たかってそれを見ている労働婦人たちは腹をかかえて笑いこけている。
 アガーシャ小母さんは、実際三月八日今日の婦人デーが嬉しくてたまらないのだ。今年アガーシャ小母さんは、工場委員会と『労働婦人』という雑誌社から、モスクワ煙草工場の最年長突撃隊員の一人として、賞を貰った。赤いリボンで飾ったレーニンとクララ・ツェトキンの肖像画、『労働婦人』二年間の購読券。アガーシャ小母さんが踊る間、それは今ニーナが笑いながら大事に抱えて持ってやっている。
 労農通信員のマルーシャが、みんなにからかわれながら、額におちてくる金髪をふりあげふりあげ上気した顔をして小形写真機
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