ソヴェト映画物語
――「新女性線」(ソユーズ・キノ文化映画部作品)――
宮本百合子
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七巻の美しい立派な映画は、ソヴェト同盟が、世界じゅうのあらゆる婦人のために、婦人の幸福とそれはどうして守られなければならないかを知らせるためにこしらえたものです。
夜がだんだんあけ放れて、東の空が白みはじめる。もうよっぽど前から起きて働いていた小母さんが、外が明るくなったのでフッと電燈を消した。
コツコツまだ人通りのない道の上を歩いて、長い棒をかついだ婦人点燈夫が街燈の灯を消して行く。
日は窓々をひろく照らすようになって、サア、家々の掃除が始った。工場へ行くために、役所へつとめに出るためにせっせと顔を洗う。服を着る。もう往来は朝の勤めに出る女や男でいっぱいになって来た。
家の中でも!
工場の機械の間にも!
役所の机の前にも!
ここにもあすこにも、働く女を今日の世の中で見ないところは無い。どこででも女は男と並んで勇ましく働いている。
だが、注意! 注意! 注意をしなければならない。
ひとりでは腰の切れないほど重いものを無理やり背負ったり、身もちの体を押して力業をしたりすると、注意! 注意! 忽ちそれは思いがけないひどい苦しみを女の体にあたえる。もだえ苦しみ、病院へ行き、しかも死ぬようなことになるのだ。
婦人も働く。われわれは男と並んで働くが、丈夫な体をもって楽しく働くためには、いろいろ婦人の体の組立てについてハッキリしらねばならない。
そのためにこの「新女性線」ロシア語のもとの名は「婦人の衛生」という映画が、プラウデ教授という婦人科専門の医師のさしずで美しくつくられたのです。
世に出て働く婦人のために、この映画は捧げられた。
生れ落ちたそのときから、女の赤坊は男の赤坊と体がちがう。
正しく体の骨が発達するように……
お腹の筋肉が丈夫になるように……
今に立派な女となるように、医者のさしずで赤坊にも体操をさせてやらなければならない。
段々大きくなって来ると女の児のすきなのはナワ飛びです。
ひーふ、
みーよ、
いーつ、む、
ピョン、ピョン、ピョン、ピョン面白そうにナワ飛びをする女の児に決して「なんだネ、一日ピンピンはねてばっかしいて! 家へひっこみナ!」と叱ってはいけない、ナワ飛びが好きなのは、女の子の体の組立てがその運動を必要とするからなのです。ナワ飛びの邪魔をしてはいけない!
いつかナワ飛びもしなくなると、そろそろ女の子の体が女らしくなって来ます。乳房の形がついて来る。腰が張ってふっくりして来る。そして女の一生に誰しも忘れない時機――月経の始まるときになる。
どうして月経が起るかというと、見なさい。女の腹の中に右と左と二つの「卵巣」がある、そこで一月に一つずつの肉眼では見えない卵細胞が育つ。それが体の外へ排出されるとき月経が起り、「子宮」の内壁から出血するのです。
この時期は、婦人にとって大切な時です。足をピチャピチャにぬらして風邪を引いたりしないように!
ひどく揺れる自動車にのったり、馬にのったり、水浴びをしたり馴れない労働をしてはいけない!
いい加減な手当をしてはいけない! きっちりと丁字帯をあてなさい!
昔の人や、未開な国では女の子に月経があるようになると、もう大人になったシルシという。そして嫁にやったりする。どんな子が生れるかというと、恐ろしい! まるで蛙の子のようにヒヨヒヨな赤坊が生れ、しかも、女の子は二十にならぬうち、もう婆のようにしなびてしまう。
二十歳近くになって、
ただ二十歳近くになって、
初めて婦人の体の組織は完全に成熟するのです。
「子宮」は女の性器官のうちで一番大切な役目をもったものです。
その「子宮」が前屈したり後屈したりして婦人が苦しむのは、勤労の不規則な条件からだけだ。長い時間腰をかけたっきりでいる――長い時間立ったぎりでいると、
また、仕事のひまがなくて長い間小便をがまんしていると――
「子宮」は転位して婦人の不幸をもって来る。
だから、職業の性質と婦人の健康との関係を考えて、婦人のためには特別ないろいろの機関が設けられなければならないのだ。
婦人は決して炭鉱なんか、地面の下の労働をしてはならない。
婦人に決して熔鉱炉の前で火ダルマのようになって働く火夫の仕事は出来ない!
働く婦人は、いつも自分達で気をつけて職業病に打ち勝つようにしなければならないのです。
空気がゴミやガスでよごれている職場では、仕事の間にもきまって何分かはモーターを止めて、サッと窓をひろく開け、一同そろって、
一!
二!
三!
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