で迎えられた。
――どうでした?
――御承知のとおり何しろまるっきり新しいもんですからね。
――ようござんしたか?
――さあ。……とにかく見て御覧なさい。
成程。――
筋は蹴球選手と掃除女である女子共産青年《コムソモールカ》との変愛に非階級的なメシチャニン(小市民)の若い男と女とがからむという組み合わせだが、本質的にこれが、王子、姫君、横恋慕をする髯面武士の配列とどう違うだろうか。王子が、ソヴェト製の黒と黄色い縞の運動|襯衣《シャツ》をつけたフットボーリストに代っただけで、新しいソヴェトのプロレタリアートの生活感情は把握されてない。
ただ、フットボール競技場前の広場へ、アルバート広場に群っている通りな、いろんな物売りが出ていて、あっちから巡査がやって来るのを見るとパッと蜘蛛の子ちらすように逃げ出すところは、活々した日常生活の光景からの断片で、そこのところで笑わないものがなかった。
しかし、滑稽なことに、この一等活々したエピソードの場面は、実は「フットボーリスト」全三幕を通じて最もバレーらしくない部分なのだ。踊る物売りなんぞ一人もいない。卵の入った籠を抱えた婆さんや新聞売
前へ
次へ
全55ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング