で迎えられた。
 ――どうでした?
 ――御承知のとおり何しろまるっきり新しいもんですからね。
 ――ようござんしたか?
 ――さあ。……とにかく見て御覧なさい。
 成程。――
 筋は蹴球選手と掃除女である女子共産青年《コムソモールカ》との変愛に非階級的なメシチャニン(小市民)の若い男と女とがからむという組み合わせだが、本質的にこれが、王子、姫君、横恋慕をする髯面武士の配列とどう違うだろうか。王子が、ソヴェト製の黒と黄色い縞の運動|襯衣《シャツ》をつけたフットボーリストに代っただけで、新しいソヴェトのプロレタリアートの生活感情は把握されてない。
 ただ、フットボール競技場前の広場へ、アルバート広場に群っている通りな、いろんな物売りが出ていて、あっちから巡査がやって来るのを見るとパッと蜘蛛の子ちらすように逃げ出すところは、活々した日常生活の光景からの断片で、そこのところで笑わないものがなかった。
 しかし、滑稽なことに、この一等活々したエピソードの場面は、実は「フットボーリスト」全三幕を通じて最もバレーらしくない部分なのだ。踊る物売りなんぞ一人もいない。卵の入った籠を抱えた婆さんや新聞売子が、ドタバタと、大きな第一オペラ舞踊劇場の舞台の右から左へ埃を立てて駈けこむだけ。地で行っている。それで思わず笑う。――
 ここでは現在及未来の新鮮なソヴェト社会生活を直感させるようなバレーの技術も欠けている。フットボーリストも箒をもった若々しい婦人労働者も、踊りかたは全く古典的なバレーの方法で、アンナ・パブロ※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]の弟子だ。コムソモールカが昔のバレーの白鳥のようにやっぱりああいう風に爪立って、チョチョチョチョと歩いて、キュッと片脚をのばしている。
 服装だけのコムソモーレツとコムソモールカとが、超現実的に追いつ追われつ、爪先踊りをやって、メデタシ、メデタシになって、最後の五ヵ年計画バレー化に到っては、問題の外だ。
 五ヵ年計画を表徴するものが何だと思う? 変てこなヴェールをかぶった五人の女だ。その五人の女が、全然古風な、運命のつかわしめみたいな踊りをクネクネ踊っていると、舞台の奥へ、耕作用トラクターと数人の踊り子が出て来る。入りまじって踊り出す。トラクターが出たから農村の集団化を意味しようとしていることは確かだ。
 次に、仕掛の滝がザーザーおちは
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