イナの木版には非常に面白いものがある。ただしかし非常に面白いのは、そういう風な倶楽部の絵画研究部で作る絵なんかは、技術的には随分下手だけれども、下手な中に如何にも、新生活が始まったばかりのソヴェトの新しい主題が非常に取りこまれている。
例えば或る展覧会で見た絵で、農村の室内風景、それはどんな室内風景かというと、聖像は取り外されている。その代りそこにあの髯の多いマルクスの額が掛っている。そうしてその前で爺さん婆さんが何をしているかと云うと、やっぱり聖像に向って膝まずいてお辞儀しているように、マルクスに向って膝まずいて老夫婦がお辞儀をしているところを描いた絵があった。そういうのはソヴェトのプロレタリアートの絵描きでなかったら発見しない主題である。それは実生活に新しいものと古いものと錯綜して、新しいものが勢力を得て来ていることを現したもので、非常に興味を感じた、そうして笑わずにいられない、また同時に好意を感ぜずにいられない。
ソヴェトの絵の展覧会は、パリやあちこちで開催されて、ソヴェト美術の紹介とされている。
それでウクライナの木版なんかも非常にいいのをウィーンかどっかへ持って行って展
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