す。だから、一寸でもじっとしては居りません。今出たかと思うともう消えます、同じ物が再現したかと思っても、其の微妙な色彩の何処にか、必ず変化が来て居ります。其が、完く、泣虫寺のおしょうの見たように踊り廻り、とっ組み合い、千変万化の姿態で私の前に現れます。
 その一つ一つに、何か不具なところが在るように思われます。この不具は、存在の全部を否定するものではございませんが、兎に角、何か不具なところがある。そして、時々其が激しく油を切らして軋み合います。
 その恐ろしい騒音は、地上の何処へ行っても聴えるものではございますまいか。
 其と同時に、此の騒音の最中から、何等の諧調を求めて、微かながら認め得た一筋の音律を、急がずうまず辿って行く、僅かながら、高く澄んだ金属性の調音も亦、天の果から果へと伝って参ります。
 日本にも馬鹿は居ります。アメリカにも大馬鹿が居ります。
 粛《おごそ》かに心を潜めて思う真心の価値は、其を表現する言葉の差で違うべきものではございますまい。
 誰も、我が国、我国と怒鳴りながら、大汗を掻いて騒ぎ立てないでも好ろしゅうございましょう。又誰も、「彼国」彼の国と指差しながら、周
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