になる。
 女性は、いつかふくよかな胸と輝く瞳とを得、素朴な驚異の下に、新たな生命をこの地上に齎して来る。――毛皮を纏い石を打合わせて火を造った時代にも彼等は、自分達の生れない先から生きており、今は白髪となった者達を、大切に思うことは知っていたでしょう。わが骨肉の老朽を自ら感じる者等は活力に溢れ、日々の冒険で世界を拡張させて行く者共に、絶大な期待と信任を覚えたに違いない。彼等は一つ一つに新たな発見をすることが如何程、自分等皆の生活に重大な意義を持っているか、複雑な近代人の持ち得る以上の直覚で覚ったことでしょう。一人の人間が生きることは、何等かの意味で認識の拡張を意味し、屡の失敗に於てさえも尚、貴重な経験の一部を、全群の生存の為に寄与しているからこそ、長時間の生活、日々が愛され、尊まれたのです。
 この時代から見れば、私共現在生きる社会は、原人の夢想だにし得なかった大統一と同時に大分裂に支配されています。自然を征服し得たことは、人生に多大の霊光を与えた。四肢に集注されていた生活力は頭脳に分与されました。賢こくなった人間、豊富になった筈の人間精神の明確なるべき今日の人の多くがそれなら、果し
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