、落付いた分別を失わせるために、何がどうなのか正体もわからなくてただセンセーションばかりおこす事件が、次々となげ出されています。下山事件。三鷹事件。そのどれもが窮乏に耐えがたくなっているわたしたち人民の心に何かの気味わるさを感じさせ、抵抗している感情に疑惑を抱かせる政治的効果をねらって成功しています。世界平和大会が「世論を毒する宣伝を無力なものにするために、真理と理性の防衛のために広汎な戦線をうちたてる」ことが必要であることを、宣言しているのは実に実際的だと思います。
 とくに、日本の平和のために適切です。捏造記事である大本営発表に追い立てられてきょうの破滅が来たことを、日本のすべての人々は知らされました。特権階級として権力を握っているものは、どんなだいそれたことまで平気でしでかすか、ということについて知らされました。こんにち同じ本質の挑発的事件や記事が、主題をかえて、言葉をかえて、あらわれはじめました。誰が、どこでこね上げる計画なのかわからないが、山とつまれている未解決の社会問題を燃《た》きつけにして怪火を出して、一般の人々が判断を迷わされているすきに、だから武装警察力を増大しなければならない、これだから、日本の平和のためにはより強大な武力の保護がいる、と軍事同盟へひっぱりこもうとしています。日本における戦争挑発は、国の内でのこういう芝居によって実行されはじめています。平和についての口さきのぺてんは、えたいしれない、しかも人心を刺戟する策動によって、平和をあらせまいとするところまで進んで来ました。すべての主婦は、生活を守ろうとするたゆみない努力によって、キウリ一本、ナス一つにだまされることを防いでいます。三度めの世界戦争という戦慄すべき悲劇をだまし売りで押しつけられていられるものでしょうか。[#地付き]〔一九四九年八月〕



底本:「宮本百合子全集 第十五巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年5月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
   1952(昭和27)年1月発行
初出:「婦人民主新聞」
   1949(昭和24)年8月13日号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年6月4日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://w
前へ 次へ
全3ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング