住宅建築に、空間のぬけ目ない利用或は立体化ということが流行ったことがあります。昔シカゴ市で見学した一つのアパートメントの有様は、今もまざまざと目に残っています。ある一つのドアをノックしました。そのクリーム色に塗られた近代風のドアが開くと、その一間住宅であるアパートメントの瀟洒な布張のアーム・チェアに細君がかけて編物をしています。ドアを開けてくれたのはそこの主人でした。
 シカゴ市の有名な建築家である某氏が、一寸来訪の意味を説明すると、その小肥りで陽気な御主人は、いかにも快活に「さアさア」と柱のどこかについていたスウィッチを押しました。壁だと思っていた鏡板が動き出して、大きい大きい貝がらのように開いて床から一定の高さに落着いたら、それはダブル・ベッドでした。シーツも枕もかけものも、みんなそっくりそのまま入れたままになっています。びっくりして見ている目の前で、可笑しい手品をして見せるように、又ボタンを押しました。尨大なダブル・ベッドは、緩慢にカラを閉じてすべすべした鏡板に戻ってしまいました。
「何て、簡単なんでしょう!」
 子供らしい私の感嘆は、夫婦を非常に満足させたようです。
「全く簡単
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