ンテルを着た人は、王様の使者でなくて誰でしょう。
 風邪をひいた七面鳥のような蒼い顔になったお婆さんに、使者は恭々しく礼をして云いました。
「お婆さん、ちっとも驚くことはありません。私共は王様の姫君からよこされた使です。今度王女様が隣りの国の王子と御婚礼遊ばすについて、どうか、朝着る着物を、貴女に繍って貰いたいとおっしゃいます。夜のお召は、宝石という宝石を鏤《ちりば》めて降誕祭《クリスマス》の晩のように立派に出来ました。朝のお召は、何とかして、夜明けから昼迄の日の色、草木の様子を、そのまま見るように拵えて貰いたいとおっしゃるのです」
 人さし指と親指で暫く顎を撫でながら考えた後、お婆さんは、
「よろしゅうございます」
と答えました。
「拵えて差上げましょう。どうぞ直ぐ糸と布とを下さいませ」
 お城の倉からは、早速三巻の七色の絹糸と、真珠のような色をした白絹《すずし》の布とが運ばれました。それを受取るとお婆さんは、いつもの通り「九十日目に来て下さい」と云って、ぴったり家の扉をしめてしまいました。
 九十日目に来た使者は、決して途中で開けないという約束で、一つの小さい茶色の紙包みを渡されま
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