黒天鵞絨の垂幕の面は、さも嬉しそうに活気づきました。
 赤や黄色の星どもは、布の上からこぼれ落ちそうに燦きます。仮睡《まどろ》んでいた月は静かに一廻りして皎々と照り出します。いつか出て来たお婆さんはその中で、楽しそうに美しい絹糸を巻き始めました。三匹の鼠は三つの処に分れて立ち、糸車のように体の囲りでクルクルかせを走らせながら、お婆さんの手伝いをします。そんな時、金剛石《ダイヤモンド》のような光りの尾を引いた流星達は、窓の外まで突ぬけそうな勢で、垂幕の端から端へと滑りました。
 けれども誰一人これを知っている者はありませんでした。お婆さんが糸を巻くのは、もう風見の※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]さえ、羽交に首を突こんで一本脚で立ったまま、ぐっすり眠っている刻限でしたもの。
[#地付き]〔一九二三年九月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
   1953(昭和28)年1月発行
初出:「女性改造」
   1923(大正12)年9月号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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