らん……」「神さんの御ひき会せや、二人で御礼参りに行ってきやはらない、じきそこやさかえ、これまで毎朝御参りして居たの……」「何故やめてしまったの行ってればいいのに――」「もういいのやきまってしもうたのや」「何がきまったの? 私ちっとも分りゃしない、一人でうれしがってたって――」「云わんほがはなや……分っとるくせしてあかん人や……」お妙ちゃんは溢れそうに笑いながら長い袂で私を打つふりをする。
私達は二人でお互によっかかりっこをしながらこんなとりとめもない、そして美くしい気持で薬玉の方や小猫や白粉の瓶や、そんなものを見ながらはなし合って居た。すじ向いの家で二絃琴を弾いて居る。お妙ちゃんはそれにかるい調子で合わせて居たがフッとだまって私の横がおをジーッとまばたきもしないで見つめて居る。「ドうして? 何んかくっついてる?」私はこんな事をきいた。「どうもせんけど……別れてしもうた時よく思い出せる様によく見とくのや……その方がいい思うてナ」「だってまだ七月の今日十六日ですもん九月の中頃でなくっちゃあ帰りゃあしないんだもの……。若しあんまり二人で別れんのがつらかったら京都の娘になっちまいましょう、
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