一本ひっぱりながらよくそう云った。
「話すよかもよっぽどつまらないとこだワ、こんな加茂川もなければ都踊りだってなし私東京よりよっぽどここの方がすき」青いたたみを見つめながら斯う云うのを、
「うまい事云うてなはる、そんな事云わんと教えてちょうだい」こんな事をみんなから云われて私はなるたけ奇麗なところところを選んで話した、「あんたは話しが上手やさかい――ほんまに目の前に見えるようや、そうやけ」こんな事を話をさせてはお妙ちゃんが云って居た。そんなにしゃべったりふざけたりしたのは三度ほど行った時の事で、始めてそう云う家に入った時の何となし嬉しい様な恐ろしい様な私は大形のメリンスの着物の袂をキッシリとつかみながら土間に立った。そこへかおを出したお妙ちゃんは、
「マアマアほんまにようきなはった早う御上り、まってたのやから」こう云って私の手をひっぱった。うしお染の横きりの細形の体にはたまらなく似合うのを着てまっかな帯をダラリと猫じゃらしに結んでチャンと御化粧がしてあった。こんな処で見るよりも倍も美くしい様子のお妙ちゃんにひっぱられたまんま三味線や鼓や太鼓のどっさりかけてある部屋を通った、そこには眉の
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