。いつも一番さきに通るあの眉の青い女房のところから何か云ってきかせて居る様な声がひびいて居る。「どうしたのかしら」私はきき耳をたてて居るとしばらくして云ったもう一つの声がどうしてもお妙ちゃんらしい。何と云うわけもなくただおびやかされた様な気になって私は身ぶるいをした、そして、あけようとしたのをそのまんまぬき足に一間位あるいてあとは一散走りに走って内にかけ込んでホーッと息をついて白い眼をして後をふりっかえった。その日一の[#「の」に「ママ」の注記]わだかまりのある情ない一寸の事でもすぐ涙をこぼしそうな日だった。翌日私はこらえきれなくなって早すぎると思いながらも出かけた。お妙ちゃんはもう起きて居た、手まねぎをするのでそのまんまいつもの二階に上った。どことなくいつもと変って陰気が目に見えて居る様な気をして私のかおを見るとだまったまんま、細いしなやかな首を私の肩にがっくりともたせかけてしまった。「どうして? 何かかなしい事があるの? 私にどうか出来る事ならするけど――」せまい額を見ながら斯う云った。「エエ、そんなに悲しい事でもないのやけどマア、こうなのや、きいてナ。□□[#「□□」に「(二字不
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