まれた足がせまい階子を下りて来る、あやぶげな様を思って「若しおっこったら!」こんな下らない心配におそわれて居た。ぽっくりの音をすぐそばでさせて、
「ようまってて御呉れやはった、わてキッともう御帰りやはったろうって云っとったやに――」
お妙ちゃんはこんな事を云いながら石っころの多いところを高い下駄に長い着物を着て居ながら器用に歩いて居た。「今夜のよな時、いつまでもいつまでもおきて話して見たい様だ事」一人ごとともつかずにこんな事を云ったけれども御妙ちゃんは何とも云わないで白い足と手とかおだけ闇の中にホンノリとうき出さしてうつむき勝にあるいて居た。私は自分の家を通り越して御妙ちゃんを送りこんでから家にかえった――。こんな様なまるで恋中の様な日は毎日毎日つづいた。そして千羽鶴をおって糸を通す針で小指をついたんで母はんに紅絹《もみ》でつつんでもらったら友達が私に小指をきったんだろうって云われたなんかって云う事があった。一日一日と立つごとに私とお妙ちゃん雛勇はんとは段々仲がよくなるばっかりであった。お妙ちゃんの家に行きはじめてから二十日ほど立った日私はおひるをたべるとすぐいつもの格子の外にたった
前へ
次へ
全27ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング