又雛勇はんがすきに御なりやはったのやけ?」
 今まであんまり口数をきかなかった中位の妓が云い出した。「そうですとも……もとからすきだったのが御うたきいたんで倍も倍もすきになったんです、どうして心配なの? すきだって何にも悪かないでしょう……」こんな事を平気なかおして私は云いのけた。
 お妙ちゃんは私の口元を見ながらかるくほほ笑んで居る――その様子が又たまらないほど可愛い様子だ。私は頭ん中でこういってやった。「どうしたってどうなったっても私はお妙ちゃんがすきなんだから、……いいさ、だれがなんて云ったって……」そんな事を云いあって笑ったりなんかしておひるすぎまでさわいで二時頃ビックリした様な気持で家にかえった。家のたたみの上に畳って居ても「又ナー」云って一寸私の小指のさきをつまんだお妙ちゃんの様子やあのバラ色のかおのリンかくを思うと又すぐ行きたい様な気がした。夜になったら座に行って会おうこんな事をたのしみにして夕飯をしまうとすぐ髪を結いなおして縮緬しぼりの長い袖の着物に白い博多を千鳥にむすんで祖母をひっぱって出かけた。
 私は幕のあくたんびに御妙ちゃんの出るのがまち遠しくてまち遠しくて自分
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