く感ぜられました。当時三十歳を越していた彼女は、自分の境遇に同情し、所謂《いわゆる》世話好き人の媒妁によって、土地では金持として知られている或る男と結婚することになりました。
少女時代から不運で、陰気な人生の片側を歩いて来た彼女は、全く、生涯をかけて、嫁して行ったのだそうです。
けれども、結果は悪く、三年同棲する間に、女性がその良人に対して持ち得る極限の侮蔑と、恥と憤とを味って離婚してしまいました。
生活の安全、幸福と云うものは、只、金でだけ保障されると思って媒妁人は、心から彼女の為を計って、却って、富の程度に比例した非人間に、彼女を紹介する誤を犯して仕舞ったのです。
過般、私が遭った時、彼女は、噂に聞いて陰ながら悦んでいた二度目の幸福な結婚から、不意に良人を奪われて間もないと云う気の毒な状態にいました。
切角人格的に尊敬し得る異性に出会い、まことに愛されもし、漸々遅蒔きながら人生が実りかけようとすると、今度は予想外の死で、万事は、動揺と不安とへの逆転になってしまいました。
彼女にとっては継子である嗣子夫妻との間に理解を欠き、亡夫の一周年でも過ぎたら、どうにかして、彼等は全く絶縁した生活を講じなければならない状態に成って来たのです。
夕方、山を眺めて涼みながら、私共は随分種々のことを話し合いました。
彼女が、どんなに故良人を愛慕しているかと云うことは、些細な言葉の端々にもうかがわれました。若し出来るなら、真個《ほんと》に一生彼の妻として終始したいと云う彼女の希望には微塵《みじん》も嘘はありません。
然しそれなら、恒産も無く、老後を扶養して呉れる縁者もない彼女は、今後某々未亡人として、立つべきどんな生活方針を見出してよいかと云う、実際問題になると、考えは荒漠とした処へ迷い込んで仕舞うらしく見えました。亡夫を愛する彼女は、嘗て一度目の失敗の後結婚に対したように半事務的な態度で、第三の良人を予想するには堪え得ないのです。然し、周囲が最善の道として彼女に示す処は、唯その一路であると同時に、彼女自身も若しそれを断然拒絶するとしたら、果して後には何が、よりよき生活として見出されるだろうかと云う危惧を払い得ないのです。
始めそのことを聞いた時、第一自分の胸に来たのは、何故それ程、生活方法を見出すのが困難なのかと云う鋭い反問でした。
一人の女性が、真実に独立の
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