はるかな道
――「くれない」について――
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)健気《けなげ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九三八年十一月〕
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 今わたしの机の上に二冊の本が置かれている。一冊は最近中央公論社から出版された窪川稲子の初めての長篇小説と云うべき「くれない」である。もう一冊は、これもごく近く白水社から出た「キュリー夫人伝」である。この二冊の本は、それぞれに違ったものである。左方は名の示すように、世界の科学に大なる貢献をした婦人科学者の伝記であるし、一方は日本の婦人作家によって書かれた一つの小説である。だが、この種類のちがう二冊の本は、その相違にもかかわらず、今日の生活の下に現れて何と強力に我々の心に呼びかけて来ることだろう。二十世紀の社会というものが、それぞれ国土の違った、環境と習俗と専門の違った、従って生涯の過程も異っている女性の生活記録にも猶貫く一すじの血脈を感じさせるのは、感動的な事実である。私たちには次のことが実にはっきりと感じられる。
 若しキュリー夫人が「くれない」をよ
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