てなも」
こんな事を云った。私と母は、かおを見合せて笑んだ。
「御めんやす」
御まきさんが斯う云うと車は段々くらい方に入ってしまった。
「京都で育った娘なんて随分ぼんやりなもんだ事、けれども御化粧だけは随分気がつくもんだ事」
「厚い御化粧で長い袂と着物であんなあたまで御かざりにはいいけれど」
母と二人でこんな事を云いあった。
御仙さんの云ったことばやそぶりなんかでいつまでも忘られないほどのとこは一つもなかった。ただいつまでもあの唇の紅と千鳥むすびと花ぐしとすり足ばかりが目の前にちらついて居た。
底本:「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年11月25日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第6刷発行
※底本では会話文の多くが1字下げで組まれていますが、注記は省略しました。
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2009年8月9日作成
青空文庫作成ファイル:
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