かわいさにさそわれて……
テントムシ ダマシ
青々細くなよなよと
萌え出た菜の葉のその上に
のっかって居るテントムシ 黒と赤とのせなもった……
そっとつまんで手にのせた
「お前―― かわいいテントームシヨ
どうしてそんなにふとってる?
まるでだれかさんとおんなじに……」
ころがしながらこう云った
小虫はなんとも云わないでやっぱりコロコロころんでる
それでも前のよにかわいらしい……
白い着物のたもとの上に
そっとのっけて垣づたい
となりのおばさに見せにいた。
「おばさん、一寸マア御らんなさい
何て云うかわいい虫なんでしょう。そいでほんとにキレイでネ
糸でつないでまるくして
はだかの首にかけてても
たあれも笑いやしますまい」
私しゃ おばさにこう云った
可愛くてたまらない声でネー……
おばさは大きい鉄ふちの
めがねをチャンとかけなおし
ガラガラ声でこう云った、西のなまりでこう云った
「違いますぞナ、こりゃあんた
テントムシダマシヤ ないかいな」
私は目玉をクルクルと
三つまわしたばっかりで
だまって家ににげ込んだ……
見たまま
空色に 水色に
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