ら紙のあおる音の様なテカテカテカをやって居る男や、万燈をかついで走り廻って居る男やはそんな事は一寸も知らずに――又知って居てもすっかり忘れて狂いまわって居る。家並につるしてある赤い提灯の光、ひっきりなしにつづく下駄の音、笑い声かけ声がしずかな部屋の中におしよせて来るのを、中に居る人達は大変におそれる様に、どうにかしてふせぎたい様な気持でかたくなって頭っからおさえつけられて居る様な気のして居た。まどもしめ、戸もとじ処女の床のまわりには屏風も立ててなるたけその音の入り込まない様にとして居ても目に見えないすき間から入って来る。音や光りは今にもしずかにして居る処女の体をうごかせて目をつぶったまんま浮れ出させやしまいかと思われた。誰の頭の中にも斯うした思は満ちて居た、人達は時々のぞく様にその着物のはじをのぞいて、して置いたまんま一寸も動いて居ないのを見ては小さな溜息をつきながら安心して居た。テカテカテカテカ……処女がうす青い唇をふるわせる音の様に思われた。フラフラゆれまたたいて居る赤い灯、恋を知らずに逝った霊の色の様に見られた。
 人間の力ではかり知る事の出来ない何かが目の前におっこちて来るんじ
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