云った。
「京都ではふだんでも日傘をさしてますか。あの紙でつくった」
「さしまっせ。私なんか御師匠はんとけいくにいつでもさしてますワ、模様をたんとかいてナ」
「貴女何ならってらっしゃるの」
「鼓と琴と茶の湯と花と」
「マア、そんなにならって一日の内にみんななさるの」
私は自分にくらべて随分いろんな事をするもんだと思ったんでこんな事をきいた。
「そうやなも、気の向かんときは行かんけど……」
「皆すきなものばっかりなの」
「すききらい云うて云わねんと母さんが云いやはるさかえ」
御仙さんと私はこんな事を云って居た。段々夕方の暗さが深くなって来て部屋に電気がついた時、
「家にかえりとうなってしもうた」
やんちゃのようなはな声で御仙さんはこんな事を云って私の方に身をすりよせて来た。
「何《ど》うして?」
「何んやらこわらしゅうて」
子供のようなことを云う人だと思いながら私は手をそっと御もちゃにしながら、
「そいじゃ、あっちに行きましょう皆の居るところへネ」
私は仙さんの手をひいてうすくらい廊下をつたわって茶の間に行った。御せんさんはそこをあるくんでもすりあしをしてあるいた。
「あんた夜電燈もたずにおあるきやはるの?」
「うちんなかを」
「エエ、私なんかどけいこにもぼんぼりもって行きまっせ」
「マア、随分、御つぼちゃんだ事」
私はこんな事を云いながら大きな笑で笑った。御仙さんもかるくはにかんだように笑いながら私の手にしっかりつかまってすかすようにしてあるいて居る。
「おせわさまどした」
おまきさんは煙草をつめながら障子をあけた私達のかおを見て云った。
それから四人丸く坐って祇園のまつりのはなしや、加茂の夕涼やまだ見た事のない京都の様子を御まきさんにはなしてもらった。
その間御せんさんはおっかさんの体にもたれかかってその眉のあたりを見ながらはなしをきいて居る。
御はんの時も御せんさんは御つぼ口をしてたべた。
御まきさんはもうどんな時にも御仙さんが可愛くて可愛くてたまらないと云うように見えるし又御仙さんも御母さんがよくってよくってたまらないと云うようなかおつきや口つきをして居た。
御はんがすんでから、わきを向いて御仙さんはふところから懐中かがみを出して一寸紅を唇にさしなおして小さいはけで口のまわりをはたいたりして居た。
私は世間の事も知らずほんとうにややさ
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