かわいさにさそわれて……

     テントムシ ダマシ

青々細くなよなよと
萌え出た菜の葉のその上に
のっかって居るテントムシ 黒と赤とのせなもった……
そっとつまんで手にのせた
 「お前―― かわいいテントームシヨ
 どうしてそんなにふとってる?
 まるでだれかさんとおんなじに……」
ころがしながらこう云った
小虫はなんとも云わないでやっぱりコロコロころんでる
それでも前のよにかわいらしい……
白い着物のたもとの上に
そっとのっけて垣づたい
となりのおばさに見せにいた。
「おばさん、一寸マア御らんなさい
 何て云うかわいい虫なんでしょう。そいでほんとにキレイでネ
 糸でつないでまるくして
 はだかの首にかけてても
 たあれも笑いやしますまい」
私しゃ おばさにこう云った
可愛くてたまらない声でネー……
おばさは大きい鉄ふちの
めがねをチャンとかけなおし
ガラガラ声でこう云った、西のなまりでこう云った
 「違いますぞナ、こりゃあんた
 テントムシダマシヤ ないかいな」
私は目玉をクルクルと
三つまわしたばっかりで
だまって家ににげ込んだ……

     見たまま

空色に 水色に
かがやいて居る紫陽花に
悪魔の使か黒蝶が
謎のとぶよにとんで居る、
ヒーラ、ヒーラ、ヒーラ
わきにくもめが白銀の
糸でとり手を作ってる
ヒーラヒーラ黒蝶が
紫陽花にとぶ夏の夕

     〔無題〕

カガヤケ かがやけ可愛い御星
あなたは一体どんな人
そんなにたのしくキラキラと
天のダイヤモンド そのように……
偉いお日さんが落ちたあと
しない内気な若草が
夜つゆにしめる其の時に
貴方の小さいしとやかな
光が小さく見えてます
かがやけかがやけ 小さい御星
 夜中かがやけ
      御空の御星

     芽生え

 おととしは三つ咲き去年は一つ咲いて枯れた朝がおは今年はいつも、あのよわよわした体をもたせかけて居る垣根にその姿を見せなかった。
「今年は出ないんかもしれないぞ――あんな弱々しいんだったんだもの」
「そんな事はないでしょう。目に見えないところに生えてるんですよキット。あんな草なんて云うものは思えない、人間の想像のつかないほど生活力の強いものなんだから」
 こんな事を云い合い今日までたった。ほかの家のかきねなんかにもあの可愛いようなかわいくないような花が見え出して居るのにと気
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