もたれたのであった。
 フランスのジュール・ロマンが第二次ヨーロッパ大戦のはじまったばかりの頃書いた『ヨーロッパの七つの謎』という一冊の小さい本が、日本語にも翻訳されている。それには、第一次ヨーロッパ大戦の後、もう二度と世界に悲惨事をまきおこすまいと希望する各国の人々が、ヨーロッパ各国の間でどんなに手をつなぎ合い、平和の継続に努力し、しかもその努力がどういう力で破られたかという悲劇をまざまざと描き出している。この頃は毎日新聞にチャーチルの第二次大戦の回想録が出ている。それにもうかがわれるとおり一九一八年に敗戦国となったドイツの人民はカイゼルの軍国主義政治、植民地をひろげようとする侵略政策をやめて、当時発達していたドイツの科学と工業の実力で平和で人民的な生産様式をもつ国――社会主義の要素の多い社会に前進しようと欲した。しかし、同じ戦敗のドイツの中でも、そしてあの世界史的なドイツのインフレーションの中でも、第一次大戦によって軍需成金となった新興財閥は存在した。それら一握りの新マーク階級の人々は彼等の特権にとって有利でない人民的な生産様式にドイツの社会が進化してゆくことをのぞまなかった。その
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