述べたことは調書にもとられているが、これがどのくらい本当なのか自分は分らなくなった。」と第一の手記と異る第二の手記を提出した。
「(前略)以上にのべたことはすでに検事調書にも相川判事の調書にもとられています。そして、それがどのくらい本当なのか、自分は多分に検事の尋問に調子を合わせて色々しゃべって来たのでわからなくなりました。(中略)一ヵ月あまりせめられて、」「自分一人で志願囚となるよりは」「皆で背負ってゆくのも同じだと妄想し出し、十月十三日、二日ほど拒んだのですが、紙と鉛筆とをわたされ私一人の自白と同じような気持からスラスラ書いてしまったのです。翌日、自分一人ならまだしも仲間まで関係づけたことが悔いられ、さんざんたのんで撤回方を願ったが」「私の生命といわんよりは魂を救うために上申書は取消して下さいといったが駄目でした。」「八月二十日、私一人犯行説でも、私は自分の想像の供述に対し、検事の言により度々調子を合わせて述べているのです。」(一一・一六、毎日新聞)被告竹内は「新聞で見て大体検挙の想像で考えていた」ことや当直で見ていた当日の配車状態などから、供述しているのだった。「私は自分で自ら墓穴を掘りつつあるような気がします」「今でも検事に述べたことについては覆せる気持はありますが、何しろ相川判事に調書をとられたのが一番なやみの種です」(同日、同紙)
 相ついで発表され、しかも正反対の内容をもつ竹内被告の二つの手記のよびおこした波瀾によって、十一月十八日の第二回公判廷には、ひとしおの緊張がみなぎった。
 去る四日の公判第一日に、満廷の公訴取消しの要求に対して、一言も発せずじまいだった検事団は、この日の公判廷では、へき頭、勝田主任検事が立って、公訴の適法であることを強調し「もしこの発言にかかわらず前回の如きことが行われる場合は、これに関し異議をのべ、必要な発言を行うことを附加するものである」(十九日、毎日)といった。この日の午前の法廷では、前回に引つづき公訴を取消す要求が、行われたのであるが、検事連は、自席に立ちあがり、十五回にわたって鈴木特別弁護人の発言を妨害した。執拗に裁判長にくり下る勝田検事に裁判長「発言にたいする異議はいいけれども、発言しているものに対して妨害してはいけない。」(公判速記)弁護士団の長老長野国助弁護人も「とくに検察団にのぞみたい」と「審理中に検察団はあ
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