子二人のかえる迄にはどんな模様に変るか分らない。お茂登はそのことを強く感じた。それにまた、二人がきっと還って来ると、誰がその証拠を示しただろう。
この考えにゆき当ると、お茂登の胸は息子たちへの一層深く、生々しい憐憫でふるえるようになった。故郷を思えば、それにつれて母親のことを思うしかないような若者たち。勿論、お茂登にしろ、息子の生活に息子だけしか知らないものがあろうとはおぼろ気ながら察していた。例えば、源一に面会に行った晩、帰りのバスを源一は何故はずしたのであったろう。広治は、兄が公用証を持っていると話していた。それがあるなら出られないわけはなかった。何かの曰くがあったのだ。あの時のことは忘られず、屡々お茂登の記憶に浮んだが、まかれたとしてそれに腹が立つより、そんなにして自分をまいたりした日頃やさしい源一の出発前の心根が、哀れに思われるのであった。
還ると思えばこそ、待つことだけを心において、いない間の淋しさにかかずらってもおられた。二度と息子の生きている姿を或は見ることが出来ないかも知れないのだと思うと、お茂登の心は、昔々源一たちが小さくて自分が襟をあけては乳をくくめてやっていた
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