てその若い母のおののく胸に抱きしめられて無心に飢餓の時代も経た嬰児たちは、今や二十五歳の青年であり、娘である。彼等の或るものは、昔その母が彼女を胸に抱きしめたように幼い子供を抱擁して、前線へ出発して行く良人の傍を並んで歩いて行っているであろう。それを眺める父と母たちの思い、彼等に何を想起させ、何を望ませているであろうか。ヨーロッパの天地は再び震撼しはじめているが、この前のように盲目の狂暴に陥るまいとする努力は到るところに見られており、男に代って社会活動の各部署についた婦人たちも、二十五年昔よりは高められている技能とともに単純なヒロイズムにのぼせていないものを持っている。
 ロンドンで九月三日以後日々結婚登録をする者が夥しい数にのぼっていると報ぜられている。そのことも自分たちの高揚した気分からだけされているのでないことは、十分察せられる。生活ということがそこでも考えられている。
 刻々の推移の中で、人間らしい生活を見失うまいとする若い男女の結合が、今日の新しい結婚の相貌であるということは、日本について云えるばかりでなく、いくつもの国々の、心ある若い世代の生きつつある姿であると思う。[#地
前へ 次へ
全13ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング