会話をするのよ。私の声はよく徹るからきっと効果があってよ。私がね、一寸大きな声でカルピスが飲みたいな、というの、あなたが、もうないと返事をするのよ、そうすると、私がなるたけ、あっちの窓に向って、もうカルピスはないの? だって私もっと欲しいわ、とはっきりはっきりいうのよ、ラディオのアナウンサアのように」
「そしておしまいにJ・O・A・Kこちらは東京放送局であります? ハハハハ」
これは、愚にもつかないふざけだが、やかましさで苦しむ苦しさは持続的で、頭を疲らせた。暑気が加わると、騒音はなおこたえた。私は困ったと思いながら、それなり祖母の埋骨式に旅立ったのであった。
フダーヤは、別に何とも云ってはいなかったのに、わざわざ廻り道をし、僅かなつてで家を見つけてくれた。彼女の心持や、新しい一夏をすごす家についての空想が、穏かに幸福な希望を以て沈んだ裡に私の心を耀かせた。
私は、楽しみにして東京に帰り、家主から返事が来ると直ぐ鎌倉に出かけた。
大船という停車場へ降りたことのある人は知っているに違いないが、ここはおかしい停車場だ。東海道本線では有名で、幾とおりものプラットフォームには、殆どいつ
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