? カルピスくらいじゃあとてもおっつかないわ!」
「ハハハ、そのカルピスももうありゃあしない。さあ、垣根のところへ行って来なさい」
 二人は、悲しき滑稽で大笑いをした。カルピスを、引越して間もなくその隣から貰った。やかましくする挨拶として。私は、
「私カルピスはきらいよ」
と、いった。
「変に白くてすっぱいものよ」
「へえ、だって初恋の味がするっていうじゃあないの、初恋はそんな? すっぱい? どれ」
 フダーヤは、私より勇敢だから、すぐお湯をまして飲んだ。私は、彼女の顔つきを見守りながら訊いた。
「どう?」
「一つのんで御覧なさい」
「――酸っぱい?」
「飲んで御覧」
 私は、彼女のしたとおりコップに調合し、始め一口、そっとなめた。それから、ちびちび飲み、やがて喉一杯に飲んで、白状した。
「美味しいわ、これは案外」
 嫌いな私が先棒で、二三本あったカルピスが皆空になった。
「ねえ一寸、もうなくてよ」
「困ったな、食い辛棒にまた一つ欲しいものが殖えられては困ったなあ」
「いいことがある! さああなた縁側まで出ていらっしゃい。よくて、私は庭に降りるから」
「どうするの」
「内と外とで一つの
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